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街の百貨店・井上と別れ 45年余営業「万感の思い」

なじみの店員がいる宝飾売り場で最後の本店での買い物をする女性。「本店には週に1度は来ていたから、寂しい」(31日午前11時52分)

 「寂しい」「感謝の気持ちでいっぱい」―。松本市の松本駅前で45年余営業してきた老舗百貨店・井上本店(深志2)が幕を下ろした31日、同店には多くの人が訪れた。買い物客はフロアを回って名残を惜しみ、従業員らは忙しさの中で丁寧に迎え、さまざまな思いを胸に最後の一日をかみしめた。

 来店客は朝6時ころから列をつくり始めた。午前9時すぎ、井上裕社長が早朝からの来店に感謝し、予定外でその場にいた約30人に創業140周年記念のタオルを手渡した。7番目に並んだ百瀬太企雄さん(72)=松本市埋橋2=は「(本店が)なくなってしまうことがまだ信じられない」。
 この日は普段は売り場に出ない管理部の社員らが社長や副社長らと出迎えた。金子美穂さん(61)は午前9時50分ころ、「こんなに並んでいただき、ありがたい。そわそわするけれど、いつも通り仕事に臨みたい」と気を引き締めた。紅白まんじゅうの配布は20分ほどで終了し、最後に受け取った牛山たかねさん(83)=安曇野市三郷明盛=は「娘の結納や孫の掛け着、振り袖など随分お世話になった。いい記念」とほほ笑んだ。
 最終日を見届けに来店する元社員らの姿もあった。30年以上勤めた婦人服売り場の井澤真理さん(57)は午前10時半、同期で現在自営業の清澤千奈さん(55)=同市堀金=らとの再会を喜んだ。この日退職となり「お客さまにいろいろ教えていただき、人として成長できたことが財産」と振り返った。
 午後1時25分ころ、店の外で記念撮影していた看護師・新津香苗さん(52)=松本市横田1=はアルバイトや子供の頃の初売りの思い出を話し、「井上は松本のシンボル。寂しいけれど、新しい改革を期待したい」。
 なじみ客と店員とのあいさつも交わされた。小原剛さん(79)=同市島内=は午後3時半ころ、井上で仕立てたオーダースーツで来店。閉店を惜しみ「良い物を取り置きしてもらうなど、仲良くしてもらった」と感謝を伝えた。
 閉店時間の午後6時半には営業終了を伝える館内放送が流れた。多くの人が参加したセレモニーはスズキメソード松本支部の子供たちが井上のテーマソングなどを奏でて花を添え、午後7時、温かな拍手と「ありがとう」の言葉に包まれてシャッターが下ろされた。