2025.4.25 みすず野
気温が上がり一雨ごとに野山の緑が一気に増える。リュックサックを背に、里山を歩く人の姿がちらほら見られる。先週末はサイクリングを楽しむ若い数人が山道を走っていて驚いた◆山の斜面にあるタラの芽は、今週末あたりから採れそうだ。芽に手が届かない木はそのまま残す。木を傷めないように、来年も山の恵みにあずかれるように。あちこちで目につくサンショウは若芽を少し摘み取る◆「桜前線は人ごみとヨッパライばかりだが、山菜前線には澄んだ大気と、しみるような静けさがある」とドイツ文学者の池内紀さんはつぶやく(『ひとり旅は楽し』中公新書)。山菜は天ぷらにする人が多いが「揚げ物にするのは最後の手段」という◆詩人の草野心平は蓼科高原で暮らしていたころ、山ウドを見つけて持ち帰る。葉をみじん切りにしてみそ汁に振りかける。目覚めるような強い香りが立ち上る。「瞬間私は、都の食いしんぼうの仲間のことを思いだし、やいどうだいと独り言を言いたくなったり、食べさしたいなあとも思ったりした」(『酒味酒菜』中公文庫)と記す。そう、なぜか山菜はそれを好む友人、知人を思い出させる。