江戸時代の善光寺地震の絵図 松本大の入江教授が入手・分析

松本大学地域防災科学研究所の入江さやか教授(61)が、江戸時代に発生した善光寺地震に関する松本藩関係者の私信とみられる絵図を入手し、分析した。河道閉塞が起きた犀川流域での被災状況を詳しく報告しており、「山間部で大地震があれば土砂災害が必ず起きることを生々しく伝える資料。信州の防災を考えるために活用していきたい」と話している。
筆致の異なる4枚の絵図を貼り合わせて長さ約5メートルに表装されており、県内の古書店で入手した。1枚は地震発生後10日余りの日付と、松本藩に仕え、江戸に詰めていた医師の家系となる下條氏の宛名が記されている。別の絵図には「松本より送来」と記述があり、松本から書き送られたものと推察される。
いずれも、犀川沿いの被害を描く。現在の長野市に位置する岩倉山(虚空蔵山)の土砂崩れにより河川がせき止められた様子や、水没した集落を記録したほか、せき止められた水を抜く応急的な水路工事の計画を示す赤い線が引かれた図もある。建物の損壊など松本城下の被害についてもしたためられている。
河道閉塞は平成16(2004)年の新潟県中越地震でも発生し、応急水路が造られたことから入江教授は「二次被害を防ごうと水路工事の計画を伺わせる絵図があることは非常に興味深い」と話す。
通信手段が限られる中で発生間もない時期に詳細を記した伝達スピードに驚く一方で、山の位置などの誤りがあることから、被災地に足を運ばず伝聞や模写により作成したとみる。
併せて、入江教授は人的被害が大きかった善光寺周辺ではなく犀川流域の様子に報告が絞られている点にも注目する。松本と長野を結ぶ水運「犀川通船」が15年前から運行しており、松本藩の長年にわたる悲願から実現した経緯も踏まえ「運行継続への影響を懸念し、関心が高かったのでは」と推測している。