"ご当地運転"に県外車当惑 まつもと道路交通考・第2部③「ガラパゴス」からの脱却を
車が強引で危険な右折をする「松本走り」が松本市内で横行していることが、市民タイムスの独自調査(村井交差点で39.9%、筑摩西交差点で34.5%)で判明したが、こうした実態に県外出身のドライバーを中心に、戸惑いや不満の声が上がっている。
12年前に愛知県から山形村に移住した男性(74)は、車を運転中に対向車が急に右折してくる「松本走り」に驚いた一人だ。それ以降、交差点付近では速度を落とすようにしたが、「かえって強引な右折に遭うようになった」と嘆く。そのことを近所の人に話したところ「愛知県は違うの?」と返され、さらに驚いたという。
県外出身の女性タクシードライバー=松本市=も強引に右折してくる対向車に悩まされることが多い。「こちらのスピードを考慮せずに交差点に進入してくる」と不安を募らせている。
もちろん、ルールを守っている多くの地元ドライバーにとっても「松本走り」は脅威だ。松本市の40代女性は塩尻市内の国道19号交差点で右折待ちをしていたところ、「後ろの車が反対車線に出て右側をすり抜け、先に右折していった」と仰天体験を語る。右折レーンのない交差点での右折待ちでは、「早く行け」という後続車のプレッシャーを感じる人もいる。中にはルール違反を承知で、対向車に割り込む形で右折するケースもあるという。
「松本走り」は道路が狭くて入り組み、右折レーンのない交差点も多いという松本地域特有の事情から生まれたとの見方が強い。制約がある中で運転をする知恵であり、「必要悪」でもあるとの分析だ。実際、「『松本走り』をしないと右折できず、渋滞がひどくなる」という悲痛な声も少なくない。松本市の50代女性は約30年前、自動車教習所で路上教習をした際、教官に「松本走り」で右折するよう指導されたと証言する。
ただ、「松本走り」が道路交通法に違反する危険な運転であることを忘れてはならない。移住者が増え、高速道路網の整備で県外車の流入も多くなっているため、以前のように地元ドライバー同士の「あうんの呼吸」で「松本走り」が通用する状況ではなくなってきた。悲惨な交通事故を防ぐためにも、地域特有の「ガラパゴス」的な運転習慣をなくしていく必要がある。
日本自動車連盟(JAF)長野支部交通環境係の高山祥さんは「周りに流されるのではなく、一人一人が正しいルールを意識して」と呼び掛けている。