連載・特集

2025.2.3 みすず野

 今朝、家々のまわりには、昨日豆を投げられ追い出された鬼が、途方に暮れて立ち尽くしているかも知れない。立春とはいえ、寒空の下だ。鬼の日々も楽ではないということか◆鬼が出てくることわざの中で、最も親しまれているのが「鬼に金棒」だろうと、いろはがるた研究者の時田昌瑞さんは『絵で楽しむ江戸のことわざ』(角川ソフィア文庫)でいう。意味は「強い上にさらに強さを加えることのたとえ」(『新明解故事ことわざ辞典』(三省堂)とある◆ことわざの表現としてはもともとあった形ではなく、近世前には「鬼に金尖棒」といい、江戸期でもそういっていた例が少なくないと時田さんは説く。金尖棒とは「棒の周りにイボイボのある太い金棒」のことで、鬼が描かれた絵では必ず手にしている◆「鬼の居ぬ間に洗濯」ということわざもある。「主人や監督する者など、こわい人やうるさい人がいない間に、のびのびとくつろぐことのたとえ」だと『辞典』はいう。泊まりで出かけた主人の留守に、番頭の音頭でどんちゃん騒ぎをしていたら予定を早めて主人が帰る落語がある。「頼めば鬼も人食わず」とも。謝るしかないな。