連載・特集

2025.2.14 みすず野

 金曜日に掲載していた中信の市町村と交流のある県外自治体を紹介する連載で、生坂村の交流都市の北海道標津町を取り上げたことがあった。「シベツ」の語源はアイヌ語で「サケのいるところ」などの意味。毎年全世帯にサケを1匹無料配布していた◆中学校の美術の教科書に載っていた縦長の画面のサケの絵は、強く訴えかけてくる何かがあって何度も見入った。明治期の洋画の先駆者、髙橋由一が描いた「鮭」で明治10(1877)年頃の作。赤身が部分的に切り取られた1匹のサケが荒縄でつるされている◆髙橋の静物画には柱に掛けられるように上部に穴が開いたものが何点かあるという。「日本には歳暮に新巻鮭を贈る習慣があるが、本物の鮭の代わりに、鮭の絵が贈られたのだろう」(『モチーフで読む美術史』宮下規久朗著、ちくま文庫)という◆サケの絵は「洒落た贈答品として制作」されたとみられ「美術品としての価値に、神聖な食物としての価値が上乗せされた希有な例」だと。数年前まで毎年暮れに注文したサケの半身の薫製が、手頃なサケが入手できないそうでおあずけが続く。いかに名画でも舌では味わえない。