連載・特集

2025.1.26 みすず野

 墓碑の裏面に、自身の筆で「人は環境の子なり」と刻まれる。音楽を通じた才能教育「スズキ・メソード」の創設者として有名な鈴木鎮一の墓碑だ。松本市の中山霊園にある。1月26日は、鎮一の忌日◆鈴木鎮一記念館(松本市旭2)の収蔵品を先月、弊紙連載「ミュージアムから」欄で紹介した。中澤由季子副館長が、20世紀の偉大な芸術家のひとり、チェロ奏者のパブロ・カザルスと、鎮一が交流している写真を取り上げ、経緯を詳述してくださった。「鎮一の教育が世界的に認められたことを裏付ける出来事」。それを伝える重要な一葉の写真だった◆鎮一は、教育者としてだけでなく、超一流のバイオリン奏者としても名をはす。中澤副館長は、その鎮一が「生まれ変わったらチェロを弾きたいと常々話していた」と記し、意外な一面も伝えていた◆才能教育で鎮一は、テープ録音で送られてくる、全国の支部の演奏を全て聴き、評価を肉声で吹き込み、返却するシステムを採っていたという。テープはピーク時で年間1万5000本に及び、決して容易な仕事ではなかったはずだ。鎮一の信念とひたむきな姿勢に恐れ入るばかりだ。