連載・特集

2024.11.3 みすず野

 気がつけば街路樹の葉が、赤や黄色に変わっている。暦の上ではもう晩秋だ。日没はすっかり早まった。少し肌寒い夕方に、北アルプスの後方がオレンジ色になり、稜線のシルエットが浮かぶのをぼんやり眺めていると秋独特の物寂しさが漂う◆「秋深き隣は何をする人ぞ」松尾芭蕉。『まいにち暦生活』高月美樹監修(ナツメ社)によると、芭蕉が主役の句会に出席できなかったため病床から弟子に託した作品という。「ひっそりと暮らしている隣人のことが気になるという、秋の寂しさや人恋しさが表れている傑作といわれて」いる◆芭蕉の忌日は旧暦10月12日で、現在の暦で11月の中頃。元禄7(1694)年、51歳で亡くなった。「秋深き~」の句を得たのは、亡くなる少し前だ◆芭蕉は姨捨の月を拝するため出先の京都から木曽谷を経て善光寺街道を通った。道中記をまとめた『更科紀行』に載る作品「身丹志み停 大根からし 秋乃風」を刻む碑が、松本市四賀地区にある。幕末の嘉永2(1849)年、句の内容と場所の雰囲気が合うとして建立されたようだ。碑の前に立ち、秋が題材の句も多く残した俳聖に思いをはせた。