連載・特集

2024.9.26みすず野

 美術エッセイストで画廊主でもあった洲之内徹は、著書『絵の中の散歩』(新潮文庫)でいう。 「どんな絵がいい絵かと訊かれて、ひと言で答えなければならないとしたら、私はこう答える。―買えなければ盗んでも自分のものにしたくなるような絵なら、まちがいなくいい絵である、と」◆一昨年、78歳で亡くなったイラストレーターの矢吹申彦さんは、雑誌『ニューミュージック・マガジン』の表紙絵やレコード、CDのジャケット作品などで知られる。油彩で描かれた画面には、青い空に白い雲がぽっかりと浮かぶ構図が多い◆米国のイラストレーター、ポール・デイビスの影響を受けているような作風。油彩の作品は手が出ないが、リトグラフなら入手できるかも。猫を描いた作品もある。本のカバーに使われた絵もいい◆作品と同じ青い空が広がる。勢いにあふれた巨大な雲が隆々と競い合う夏空ではない。和菓子風のかわいらしい雲が浮かぶ。季節が変わった。「投稿フォトプラザ」に届く写真も空の題材が増えた。昨日の朝は山頂から一筆で描いたような雲が延びていた。広大な画面に描かれる自然の作品は「まちがいなくいい絵」だ。