2024.7.12 みすず野
酒席の帰りに乗るタクシーは、運転手の話が面白い。思わず乗り出す一言、二言を聞かせてくれる人がいてうれしくなる。『一粒の柿の種 科学と文化を語る』(渡辺政隆著、岩波現代文庫)には、そんな話がある◆著者は東北大特任教授。妻が科学者だと知ったタクシー運転手は「四人で飯食いに行って、お新香が三つしかないのにいきなり食っちゃう。八人で中華料理を食いに行ってエビが九つあったら二つ食っちゃう。研究者はそういう人だと聞いている」。妻は「一般社会と比べて有意な差はない」と答える◆神戸のタクシーで妻は「夜景がきれいですね」と切り出したが「色と欲が渦巻いています」と返されこれはまずいと「今日は寒いですね」と話題を変えると「一〇〇万年後に来てもろたらあったかくなってます」と温暖化ネタが返ってきた◆著者はいう「さまざまなお客を乗せ、ラジオをつけっぱなしにしているタクシードライバーを侮ってはいけない」と。これまでで最も閉口したのは、わが阪神タイガースを誰が牛耳っているのかという与太話を続けた運転手。人を見て言えと口に出かかった。ダメ虎だったころの話。