2024.5.11 みすず野
「木曽檜」が見どころで日本三大美林の一つとされる上松町の赤沢自然休養林。美林に調和する、素朴な碑が公園入り口駐車場に隣接して立つ。大正から昭和にかけて活躍し、きょうが忌日の俳人・松本たかしの句が刻まれている◆「眠りゐる檜山は餘木あらしめず」。冬になり眠っている檜の山は、他の木のあることを許さない│。赤沢の森林の特色を見事に捉えた句だ。あたかも他の樹種を排除しているかのようだと、強い表現を用いて檜山の様子を伝えている◆たかしが上松町を訪れたのは昭和28(1953)年12月。上松を拠点とする俳句結社の大会に招かれた。実はその折にひねった一句は「眠りたる檜山余木をたたしめず」。冬になり眠っている檜の山は、他の木を立たせることはしない│。碑の句に比べると、表現が弱々しい◆目にした檜山の端正さと作品の出来の差に納得がいかなかったのだろう。たかし自身が何回も推敲し、仕上げた。檜山に魅せられた俳人の執念に恐れ入るが、それに応えて建碑した地元住民もまたしかり。近くで土産店を営む女性の「良い碑。これからも大勢に見てもらえれば」の言葉にうなずいた。