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夭折の画家須藤康花展 世界観際立つ音楽と詩

静かなクラシック音楽に満たされながら康花さんの生涯に向き合う展示会場

 松本市美術館で3月24日まで開かれている企画展「夭折の画家須藤康花 光と闇の記憶」は、絵画だけでなく詩や音楽が、展示会場の大切な構成要素になっている。幼少期より病と闘い、平成21(2009)年に30歳の若さでこの世を去った画家・須藤康花さんの壮絶な生涯と深遠な内面性を浮かび上がらせ、鑑賞者の心を打っている。

 展示会場に足を踏み入れると流れ出すショパンやバッハ、ドビュッシー...。企画展の多くがBGMを伴わない中、会場全体を通じてクラシックが流れる展示は同館において珍しい。康花さんが生前耳にしていたという曲の数々が静かに、穏やかに空間を満たし、静謐な世界観を際立たせる。
 会場内では康花さんが書き残した詩にも多くのスペースを割いた。膨大な記録の中から30編余を掲示。思春期に経験した最愛の母の死、生涯を通じた病魔との闘い、死期を予感しながら過ごした日々の苦悩やささやかな喜びが一編一編に表れ、絵画と補完し合いながら、亡き画家を生々しく浮かび上がらせている。
 転居を繰り返しながら晩年を麻績村で過ごし、没後市内に顕彰の私設美術館・康花美術館(北深志2)が開館した康花さんを、市美術館でも広く紹介したいと関係者が数年をかけて構想してきた。展示会場を作り込む上で過度な演出を避けつつ、画家が生きた時間を立体的に感じ取ってもらおうと音楽や詩にこだわった。
 じっくりと、時間をかけて向き合っていく来館者が多いという。渋田見彰学芸員は「短くも凝縮された壮絶な生涯。その中でたどり着いた境地を一人でも多くの人に知ってもらいたい」と話している。