松本・巾上の老舗理容店 若手にバトン 弟子の息子が継承

店主の病気に伴い7月末に閉店した松本市巾上の理容店「ヘアーサロンアカイケ」の店舗を引き継ぎ、理容師の川越巧実さん(28)=松本市筑摩2=がこのほど、床屋「BARBA(バルバ)」を開店した。川越さんは、松本駅アルプス口近くで長年、親しまれた前の店の歴史を大切にしながら「落ち着いた雰囲気のお店にしていきたい」と語る。
アカイケは、一志直樹さんと妻の理恵さん(60)=安曇野市堀金三田=が営んだ。直樹さんは1年前に胃がんが分かり、やがて手が動かなくなり、体力も落ち、7月に閉店を決意。8月9日、体調が急変し63歳で死去した。
直樹さんの実家は代々理容業を営み、巾上の店は父の赤池道雄さん(91)=松本市島内=が昭和45(1970)年ころに始めた。3世代で訪れる常連客もいて、理恵さんは引き継いでくれる人がいないかと考えていた。
直樹さんが亡くなって2日目、アカイケで修業をした川越雅行さん(57)=床屋カワゴエ経営、松本市筑摩2=の長男・巧実さんが線香を上げに来た。理恵さんは「運命的なものを感じた」という。
巧実さんは幼い時から直樹さん、雅行さんとよく釣りに出かけていた。巧実さんは理恵さんの願いを知り、引き継ぐことを決意。都内で修業もした巧実さんは「店をやりたかったのが一番だけれど、直樹さんの店を残したいという思いも強かった」と語る。理容師として働いていた市内の事業所を10月末で辞め、開店にこぎつけた。
巧実さんは「直樹さんの技術をお客さまから学びたい。常連の方は『ここはもっとシャープだった』などと教えてくださると思う」と話す。その上で「僕と直樹さんは違う。自分の店に変えていきたい」とも力を込める。理恵さんは「持ち味を生かし、地域に愛される店になって」と願う。
県理容生活衛生同業組合松本支部によると、ここ3年間で理容店の新規開業はない一方、この1年間で7人が組合を辞めた。藤松茂久支部長(56)は「引き継いで若い人が店を始めるというのは、理容店も頑張っているというイメージアップになる」と歓迎している。