2025.5.9 みすず野
宮重、聖護院、桜島、亀戸、美濃早生、源助、三浦、練馬。これに青首が加わると、ああ、とわかる。全部大根の名前。近所の八百屋の大根は葉がない。栄養の半分を捨てていると料理研究家の辰巳芳子さんは言う。昔は「葉も皮も、才覚で美味に使っていました。夫の給料も生きていました」(『味覚日乗』ちくま文庫)と語る◆民俗学者の石毛直道さんは、北アフリカのリビア砂漠のなかの小さなオアシスで調査をしていた。食べ物は村人からわけてもらった家畜の乳と「ヤギやヒツジのエサを少々ピンハネして、ウマゴヤシのおひたしや酢の物」などを作っていた(『食卓の文化誌』(岩波現代文庫)◆ある日村人から大根を1本もらう。残り少ないしょう油を使い「大根おろしにするのが、宝物を賞味するのにいちばんいい方法である、という結論に落ち着いた」◆だが、肝心のおろし金がない。缶詰めの空き缶にくぎをまんべんなく打ち込んでギザギザを作ると問題は解決。何カ月ぶりかの大根おろしに舌鼓を打った。昔は陶磁器製でおろし皿と呼ばれた。最もよくおろせるのは板前が使う銅板製だが、素人が扱うには注意がいると。