2023.9.5 みすず野
板画家の棟方志功は昭和47(1972)年、初夏の信州を写生して回った。群馬県を含む8日間の行程に〈穂高〉が見える。講談社刊の全集第11巻に大きく載る「彫刻蔵図」は―建物の尖塔といい、題名といい―碌山美術館だろう◆躍動感あふれる筆遣いだ。一日平均100キロを車で移動しながら、10~4号の70枚を描きまくった。睡眠と食事、風景を探す以外は〈カンバスと格闘しているとしかいいようのない、すさまじい油絵制作が連日続いた〉と全集にある。45年文化勲章。50年に72歳で没した◆20年前の志功展の図録に、小澤征爾さんへのインタビュー記事があった。サンフランシスコで45年ころバラで売られていた志功の絵3枚のうち、2枚を買い求めたと語る。真作だった。もう1枚も買っておけばよかった!残念!ベートーベンが大好きな志功は小澤さんが指揮する演奏会にも足を運んだという◆明治36(1903)年9月5日、青森市の生まれ―志功の生誕120年を記念して、諏訪市のサンリツ服部美術館が収蔵作品5点を特集展示(うち3点は前・後期入れ替え)している。画面いっぱい飛び回る2人の天女に見ほれた。