2023.6.23みすず野
瀬戸内寂聴さんは京都嵯峨野の寂庵で、お菓子を作った。一つを〈紫陽花供養〉と名付ける。ところてんに、いちごジャムや白砂糖をかけて並べると、鉢の形がアジサイの花に見えた。七変化とされる七色にもちなんだ◆アジサイは紫陽花ではない―あれほど言ったのに...植物分類学の父・牧野富太郎のぼやきが聞こえてきそう。平安時代の学者が白居易の詩句に誤って当てた。日本固有の花なので中唐の詩に出てくるわけがない―博士には申し訳ないが〈紫陽花〉は千年の時を経て、すっかりなじんだ◆散歩の道すがら植え込みや庭に色鮮やかな群がりを見掛ける。『植物ごよみ』(朝日選書)によると、人気が高まったのは近年らしい。花の色が変わることから古来、心変わりの例えに使われたり化け花とか幽霊花などと呼ばれたり。一方で軒下につるして厄よけとする風習や、お金がたまるという俗信もあった◆随筆を読めば寂庵にもいっぱい咲いていた。お寺に名所が多いのは―やはり〈供養〉の花だからだろう。白や紅もいいが、あの青を見ていると何とも気持ちが落ち着く。しとしと雨が降っていたら、なおさら心が癒やされる。