連載・特集

2023.5.28みすず野

 村上春樹さんの6年ぶりの新作長編が先月発刊された。書店には分厚い作品が平積みされている。国内だけでなく、海外でも多くの読者を持ち、ノーベル賞の時期には、今年こそ受賞かとにぎやかになる◆デビュー作『風の歌を聴け』は新鮮だった。友人と夢中で語り合ったのが懐かしい。群像新人賞を受賞した。審査員5人の満票で当選したと『合本 挨拶はたいへんだ』(丸谷才一著、朝日文庫)にある。著者が昭和54(1979)年の贈呈式でしたあいさつだ◆その前に、村上さんの受賞のあいさつを「とても気がきいていた」と紹介している。村上さんはロス・マクドナルドの探偵小説が大好きで、その名探偵リュウ・アーチャーのファンなので小説家になったら、村上龍という筆名で書こうと思っていた。ところが、村上龍さんが先に小説家として登場してしまったので、村上春樹でゆくしかなくなり非常に残念だと話した◆著者は「受賞の挨拶でこのくらゐ人を喰った話ができる新人は、警戒すべきである」と。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の谷崎賞贈呈式の祝辞の前にも、味のあるエピソードが一つある。

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