山田洋次監督の評伝翻訳 800ページの大著、夫婦二人三脚で

元朝日新聞論説主幹の大野博人さん(70)と通訳で翻訳家の朗子さん(70)夫妻=安曇野市穂高有明=が、フランス人ジャーナリスト、クロード・ルブラン氏が書き下ろした大著『山田洋次が見てきた日本』を日本語に全訳した。日本映画界の巨匠でありながら、欧州では知名度が低いという山田洋次監督(93)の半生や作品をひもとき、日本の現代史をあぶりだした800ページ近くに及ぶ評伝を、夫婦二人三脚で世に送り出した。
40年前、初めて訪れた日本で映画「男はつらいよ」を鑑賞して心を打たれ、以来山田作品に傾倒するルブラン氏が、その価値を国内外に広めようと「心血を注いだ」評伝。柳川藩にルーツを持つ家系に生まれ、満州(現在の中国東北部)で育ち、日本に引き揚げた後90本に上る映画を生み出し続ける山田監督の歩みとその時代を丹念な取材と知見で著している。原著は2021年にフランスで出版された。
夫妻が翻訳に取りかかったのはその2年後。パリ特派員時代にルブラン氏と知り合い、三十年来の親交がある博人さんに打診があった。原著を初めて手にした際は「分厚さに面食らった」が、著者の並々ならぬ情熱に動かされて快諾。国際報道の記者として国内外を長年飛び回り、退職を機に5年前に安曇野に移住した博人さんと朗子さんが共訳するのは初めてで、ほぼ半量ずつ翻訳し、互いにチェックしながら進めた。多くの映画も鑑賞し直し、1年をかけて日本語訳の出版にこぎ着けた。
フランスで山田監督を"発見"させるために書かれた本書は、山田監督が銀幕の中に描いたかつての日本を日本人が"再発見"するための一冊でもある―と2人は感じている。博人さんは「日本について書いたフランス人の視点を通して、自分たちの時代や社会を相対化できる。だからこそ訳す価値があったし、その仕事を2人で実現できて良かった」と話している。