連載・特集

2025.4.7 みすず野

 昼食に出た道すがら、目に入る花の名前を口に出してみた。道路沿いに植えられた花がいくつもあって、人の手が入っていることを知る。パンジー、ムスカリがあり遠くにレンギョウ、白梅、紅梅も見える。白い花はハクモクレンだ。生家に1本、日当たりの悪い場所で、毎年ひっそりと咲いていた。春がくると思い出す◆花束を贈る習慣がある。講演会終了後などに話者に壇上で渡す花束は、控室に置いて帰るのだろうと思っていた。「必ず家まで持ち帰る」と作家の浅田次郎さんはいう。花は持ち運ぶことのできる自然であり、花を愛する理由はそれだと◆このごろ花に興味を示さない人が多くなったと嘆き「私は花を賞でる心が情操と教育の基準だと考えているので、とたんにその人物が信用できなくなる」(『ま、いっか。』集英社)と語る◆帰りは別の道を選んだが、桜はまだ開花していなかった。春の花として、多くの人が子供の頃から親しんでいるチューリップが見当たらないのが意外だった。スイセンはあちこちで見られた。これからはもっと多くの花々が春を彩ってくれる。なかでもユキヤナギの小さな白い花が待ち遠しい。