2025.4.3 みすず野
松本城の桜が紙面を彩った。開花宣言だ。桜前線はここまで北上してきた。これからあちこちで花を開いてゆく。桜は特別な花で、歳時記には「花」といえば桜を指すのが一般的だとある。春の代表格だ◆新古今時代を代表する歌人の西行(1118~90)は、若い頃から桜を愛し名所の吉野山には何度も花見に訪れたと、西行歌集研究の第一人者の寺澤行忠さんは『西行 歌と旅と人生』(新潮選書)でいう。西行が見ていた桜は「今日われわれが多く目にするソメイヨシノではなく山桜である。またその山桜には、多くの種類があり、花も多彩である」と◆さらに「西行の歌、特に桜を詠む歌が、多くの人々に愛唱されたこともあって、日本人が桜を愛好する風が広く国民の間に浸透し、定着していくのである」と説く。「願はくは花の下にて春死なむ その如月の望月の頃」と詠みそのとおりの死は人々に強い感銘を与えたとも◆花見が酒食を伴ったにぎやかな行事になったのは江戸時代の元禄の頃。「長屋の花見」「花見の仇討」「花見酒」など落語にも登場する。人々が桜をどれだけ好んでいたのかがこのあたりからもうかがえる。