2025.4.2 みすず野
小学校の入学式後、教室に戻ると、担任の先生は、当分宿題は出しませんと話した。ところが、翌日から、先生がわら半紙に謄写版で印刷したプリントが毎日配られた。点線で描かれた直線や曲線が何本も並び、それを鉛筆でなぞってくるようにと言われた◆鉛筆は2Bの「かきかたえんぴつ」という丸い軸。何本か学校から支給されたのだろうか。文字を書くようになったのはいつごろか覚えがないが、子供心に学校ではこんな簡単なことを毎日するのだろうかと思った。大昔の話である◆鉛筆を使う機会はほとんどない。「日本の大人たちは鉛筆を持ち歩かないようだ」と作家の片岡義男さんは書き出す(『文房具を買いに』角川文庫)。「鉛筆が仕事の必需品である人は、しかしたくさんいるはずだ」と続く。建設業などで使われている専用の鉛筆が何種類もあることを知る◆これも随分昔だが、入社後、鉛筆は仕事の必需品になった。直線や曲線ではなく文字で記事を書く。取材した内容を書くために、そのままなぞる手本などない。紙面に載れば消しゴムでは消せない。鉛筆はパソコンに代わったが、いまも机の中に何本か残してある。