連載・特集

2025.4.16 みすず野

 桜の開花が伝えられると「投稿フォトプラザ」へ届く作品が一気に増える。桜がらみの写真には、撮影者の意気込みがそのまま反映されるようで、力作ぞろい。1点ずつ拝見していると、居ながらにして花見をしている気分にさせてもらえる◆英文学者で天文書を数多く著した野尻抱影は「往来の桜並木から桜吹雪が庭へも舞い込むようになったので、春には珍しい置きごたつから抜けて、若い者を供に、一廻り夜桜を見に出かけた」(『星三百六十五夜 春・夏』中央公論新社)◆月がないので「まばらな街灯の明かりだけが花を浮き上がらせている」。後ろから自動車が来ると、ヘッドライトの光が「花のトンネルを、先へ先へとまっ白に照らし出して、あとを暗闇に消して行くのが面白い」といい「私のステッキと、両人の下駄の音だけが響いて行く」と書く◆桜の花は山を登る。田が日陰になるからと、冬に伐採された山桜に花が付いているのを去年の春見た。斜面に沿って倒れた幹から延びる枝に、見事な花を咲かせていた。林業に就いていた友人に聞くと、木の生命力はそうした形で現れると。その姿が貴く見えて近寄れなかった。