2025.4.1 みすず野
難しい読み方の姓というのがある。「四月一日」という姓は「わたぬき」と読むという。「昔の四月一日は『ころもがえ』の日で、長い間着ていた綿入れを袷に着かえる習慣だったので、そんなしゃれのめした苗字ができたのだそうだ」と作家の永井龍男は書いた(『おしまいのページで』文藝春秋)◆エッセイストで俳人の江國滋さんには、四月一日がらみのエッセーが何編かある。そのうちの1編は、句友たちに電話をして、かたっぱしからだました思い出を語る◆「名カメラマンをもって任じている小沢昭一にはカメラ雑誌の編集者を名乗り、オーディオ・マニアの柳家小三治には音楽雑誌を名乗り、お寺さんの息子である永六輔には仏教雑誌を名乗り、天下の食通神吉拓郎には食べ歩き番組を企画中のテレビ局を名乗って、ちょっとおいしいエサをちらつかせたら、みんな、一も二もなく、ほいほいのってきた」と(『きまぐれ歳時記』(朝日新聞社)◆SNSなどで本当ではないフェイクニュースと呼ばれる記事が公開されている。エープリルフールはしゃれたうそがいい。江國さんはこう詠む。「四月馬鹿ついていい嘘わるい嘘」。