2025.3.6 みすず野
雪の朝は、世間の音を吸い取ってしまったような静けさが広がっている。窓の向こう側が、いつもより明るい。カーテンを開けると庭木が重そうに雪をのせている。慌てて雪かきに外へ出る◆昨日の朝は水滴が落ちるような小さな音が聞こえて、外がなんとなくにぎやかだった。まだ暗かったが玄関を出ると、夕べとほとんど変わらない雪の量。思わず首をすくめるような寒さでもなく、もう解けかけていて、ありがたいことに雪かきをしないですんだ◆「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ/次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ」。「雪」と題した三好達治のこの短い詩は、雪をテーマにした作品の中で、おそらく最も知られた詩だろう。雪をもたらす冷たい空気が伝わってくるようでもある。今回はここに詠まれたような、静寂に包まれた雪の降り方ではなかった◆ひな祭りを過ぎて、松本ではこの冬初めてのまとまった雪となった。水分をたっぷり含んで重い雪だったが、大雪にならずにすんで胸をなで下ろす。お日様が顔を出せば、たちまち解けてしまいそうで、もう根雪の心配もない。景色は冬だが春の雪と呼びたくなる。