2025.3.31 みすず野
友人からもらったとてもうまいという酒を、何か良い機会でもあればこれで一献傾けようと、普段はあまり日本酒を飲まない作曲家の團伊玖磨さんは台所の床下にし まう。でも何日たっても祝い事も起こらず、機会らしい機会が訪れない。長く放っておくのはよくないと、春になったら栓を抜こうと決める(『日本の名随筆・肴』作品社)◆春らしい春が訪れるのは随分遅れたが、3月末の日曜日の朝「窓から見る庭の様子に、急に本当の春がやって来た事を感知した」。窓を開けて手を出し、空気の暖かさを感じて「今日はあのお酒を呑む可き日だ、と思った」◆夕食に春の香りが立ち上るさかなとともに飲んだ酒はうまく「ようやく春になって本当に良かった。日本の春は本当に楽しいなあ」と言っているうちに酒が快く体中にまわっていく◆夏日になるような、気温が上がった日が続き一気に季節が進んだかと驚いた。暖かくなるのは歓迎だが、春は春らしい陽気がふさわしい。駆け足で通り過ぎるのではなく、ゆっくり温暖な日々を楽しませてほしい。過激なのは人の世のあれこれだけでもう十分だ。穏やかに緩やかに。春なのだから。