2025.3.28 みすず野
にぎやかな街に出て、さまざまな店をひやかし、コーヒーを飲んだり昼食を取ったりするのが何よりの楽しみだったころがあった。昨日のことのようでもあるが、振り返るとそれなりの年月を経ている◆間もなく閉店する松本市の井上百貨店は、6階のギャラリー井上に、取材で何度も足を運んだ。ついでに店内を見たという記憶はない。仕事に追われていたのだろうか。先日、ビルを見上げてそんなことを思い出した◆六九商店街にあった旧店舗には数え切れないほど通った。平成5(1993)年、現在の信州スカイパークで開催された信州博覧会の実行委員会事務局がここにあった。取材で知り合った多くの人にはその後もお世話になっただけに、あの建物は忘れられない◆「市のはずれにひっそり暮らすのが気に入っていても、たまには街の空気を吸いに出かけたくなる」と、仏文学者の山田稔さんはいう(『山田稔自選集Ⅰ』編集工房ノア)。山田さんが住むのは京都市だが、年々似た思いが強くなる。井上が店を開いてきた松本は、そんな空気が漂う場所でもあったのだろう。CMのとおり「街はメロディーフェア」だったのだ。