連載・特集

2025.3.16 みすず野

 春雨と聞いて、しとしとと降る雨を思い浮かべた人は風流人だろう。江戸中期の俳人・与謝蕪村は「春雨や小磯の小貝ぬるるほど」を得た。正岡子規は「くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる」と詠んだ◆食い意地が張る筆者は、食べ物が浮かんだ。ネットをのぞくと、老舗の春雨製造会社のサイトに豆知識が載る。国産春雨は特長から、さっとゆでてもちもちした食感を楽しんだり、味をしみこませたりする料理に。主に中国産の緑豆春雨は長時間ゆでる料理に、それぞれ向くそうだ。名称は、細くて透明な姿が春の雨筋を連想させることから付いたという◆春の雨が題材の歌碑が松本市巾上に立つ。「傘をささねばぬるえさせばふかゆ春の雨かも春の風かも」。明治から大正にかけて活躍した松本の歌人・与曽井千尋が詠んだ。傘をささねば雨にぬれ、傘をさせば風に吹かれてしまう│。春の天候をたとえに、ままならない時世を嘆いている◆千尋は具体的に何を嘆いたのだろう。知るよしはないが、今なら物価高や緊張を増す国際情勢あたりだろうか。ままならないことがあるのは、いつの世も変わらないようだ。