みすず野2025.03.24
「芳春」と聞くと、ああ、大河ドラマに登場する浮世絵師の名前ね、と言いたくなるが、俳句の春の季語だ。「陽春」「三春」「九春」などとともに『歳時記』にある。「芳しい春」とはいい表現だとは思うが、日常会話では大げさな気もして使いにくい◆春がよく似合うのは、ローカル線の1両、2両編成のトコトコ走る印象の列車だと思い続けている。大糸線、アルピコ交通上高地線はそんな雰囲気を乗せてレールの上を移動していく。踏切で停車して列車が通り過ぎるのを見るのは楽しい◆バンジョーを手に弾き語りをしたフォーク歌手の岩井宏さんは「道草」という作品で「今日こそは降りてやろう/ここを通るたびいつもそう思う/郊外電車の小さな駅/春がよく似合う小さな駅」と歌った。バンジョーの一音一音が「トコトコ」とも聞こえる◆これが桜が咲くようになると印象が変わる。4月に入り世間は新スタート一色に。穏やかに感じていた毎日は、もう遠ざかってしまう。3月は春休みの体験が、記憶のどこかに刻まれているのだろう。県内だと飯田線、県外だと横浜線に、この歌にふさわしい春の景色がいくつもあった。