連載・特集

2025.03.04 みすず野

 俳人の小川軽舟さんは、最初の句集『近所』の最後に「渡り鳥近所の鳩に気負なし」の句を置いている。句集名はこの句から。長い旅をして日本にくる渡り鳥は秋の季語。芭蕉「奥の細道」の「日々旅にして、旅を栖とす」を引き「旅に死ぬ者も多いだろう」「旅をすることこそが彼らの生きている証なのだ」(『俳句と暮らす』中公新書)◆近所で暮らす鳩は「それを見上げて気負うことはない。いつもの生活をまじめに続けるだけだ。そんな鳩の生き方に親近感を覚えて作ったのがこの俳句だった」という◆「私だって旅をすることはある」といい、職場にも家にも近所があり「それが私の生活の場」であり「そんな近所を大事にして俳句を作ってきた」と語る◆まじめですとは言えないが多分鳩の部類だろう。それでも久しぶりに、北陸へ1泊で行ってきた。十数年役員を務めてきた地元の林野組合が年度末で解散することになり、最後の役目で福井県の永平寺へ足を運んだ。近所を散歩して、オオイヌノフグリの花を見つけるのも楽しいが、未知の場所で新たな事物に巡り合う経験は、さまざまな刺激を受ける。鳩の小さな旅もある。