連載・特集

2025.2.19 みすず野

 冬が嫌いだという作曲家の團伊玖磨さんは、寒さが苦手なのだが一つだけ嬉しいことがあり、そ れは「大好きな牡蠣のシーズンが始まる事である」と書いた(『舌の上の散歩道』小学館文庫)。いろいろな場所でいろいろに食べてみたがやはり牡蠣は「泳げる季節のものでは無く、冬の味である」◆ギリシャ人は生牡蠣を盛んに食べていて「美食の権化のようなローマ人」は牡蠣の養殖を行っていたという。「西洋人は正直だから、美味いが故に牡蠣を沢山食べる」といい、100ダース、500個という類いだったと紹介している◆評論家の吉田健一さんは、名産地・広島の牡蠣を食べるなら、産地に敬意を表して「酒は広島県産のものを頼むとこれが丁度この牡蠣に合ふ」(『旨いものはうまい』ハルキ文庫)と語っている◆幸運なことに、広島産の牡蠣を頂いた。東洋人なので山のような数ではないが、それだけで満腹になる量だった。網焼きにして産地直送の味を楽しんだ。地酒を用意したが、これだってちょうど牡蠣に合う。翌朝まで磯の香りが充満したもののそれだってうれしい。もちろん味わいながら何度もこのご厚意に感謝した。