連載・特集

2024.12.10 みすず野

 店の外とあまり変わりない寒さの店内というイメージが古書店にある。どこの店というわけではなく、そんな記憶が刷り込まれたようだ。多分、学生の頃何度も通った、老夫婦が営んでいた小さな店が印象に残っているからだ◆ブックデザイナーの名久井直子さんは「古本屋を開拓するのは、冬に限る、と思う」と、「見知らぬ本が降ってくる日」と題したエッセーを書き始める(『冬の本』夏葉社)。初めて入った古書店で手にした詩人の作品にひかれ、店にあったその詩人の詩集を全部買う◆松本市の高砂通りにあり平成25(2013)年に閉店した細田書店と、令和2年に店を閉じた大名町通りの青翰堂書店は何度か取材した。細田書店では郷土史関係の本を、青翰堂書店では戦前の満州(中国東北部)の地図を買い求めた。それが冬だったと思い込んでいたがはっきりしない。里にも雪が降り、真っ白になった山を見て思い出した◆名久井さんはエッセーを「冷たい空気に囲まれた暖かい場所で、知らなかった本に出会う、うつくしい時間です」と結ぶ。両店の書棚の前に立っていたあの頃のひととき、きっとそんな時間だったのだ。