連載・特集

2024.11.1 みすず野

 長い間所有していて愛着があるのに、表紙と本体が分離してしまったり、ページが破れたりした本がある。修繕できるのは、せいぜい貼り合わせられる部分をのり付けするくらい。元の姿には戻せない◆米国の大学院で書籍修繕の魅力に目覚め、韓国・ソウルに帰って店を開いた女性、ジョヨンさんが著した『書籍修繕という仕事』(牧野美加訳、原書房)は、あまり知られていない仕事に取り組む著者の様子が生き生きと描かれている◆取り上げた本は修繕前と後の写真が載る。店を開いて最初に担当した『89施行改正ハングル正書法収録国語大辞典(上下)』は、表紙と本文が分離、背の損傷、表紙の反りなどがある。これからも使えるようにしてほしいというのが依頼人の要望だった◆「子どものころの友だちがまた戻ってきたみたいです」。本を引き取りに来た依頼人の言葉を聞いた瞬間「どれほど感激したことか」と記す。「マイナーな仕事を続けるなかで時に疲れたとき、今なお、心の中に色とりどりの花火を打ち上げてくれる」と。近くにこんな店があればうれしい。本に関する本は多いがこんな1冊もある。読書週間は後半へ。