連載・特集

2024.6.27 みすず野

 演劇評論家、作家の戸板康二 (1915~93)は、長年にわたって集めた逸話を『ちょっといい話』として発刊した。「世の中を明るくすると評された人気シリーズ」だと、最終編となった『最後のちょっといい話』(文春文庫)のカバーにある◆この中の「歴代宰相を主とした政治家の話」で、山本権兵衛という海軍大将が首相になった時、衆議院で、ある議員が役所が怠慢だと攻撃する質問をした。「要するに、権兵衛が種を撒くと、カラスがほじくるんだから、けしからん」というと、うまいシャレなので、笑いと拍手が起こった。山本首相は答弁でにこりともせず「吾輩はゴンノヒョウエ、ゴンベエではござらぬ」◆解説で、演劇評論家の渡辺保さんはこうした逸話は話のノートを取ったのは事実だろうが「座談のなかで生まれ、座談のなかで練られた」という。「何度かの試験を経て、洗練を経て、一つの話が完成する」のだと◆記事は取材をして、メモを取るまでは同じだが、内容によりそれが事実なのかを調べる。「裏を取る」という。場合によっては大変な作業になるが、怠ると大きな誤りにつながる。忘れてはならない鉄則だ。