連載・特集

2024.6.24 みすず野

 ようやく梅雨入り。玄関先のホタルブクロが雨にぬれている。赤紫色の花は少しずつ色が濃くなる。並んで咲くムラサキツユクサも花や葉に雨をたたえる。どちらもどこかから種子が飛んできて根を下ろした。毎年、少しずつ増えていく◆作家の竹西寛子さんは、東京都内だということを忘れさせてくれるちょっとした渓谷が、家の近くにあるという。最高の眺めは「若葉が渓を暗くするほどにしげった頃の雨の日」だといい「若葉の群れが雨に洗われ、互のしずくをかけ合いながらそれぞれの色をさりげなく主張して譲らない」(『日本の名随筆・雨』「渓の雨」作品社)とも◆詩人の諏訪優さんは『田畑日記』(思潮社)に「この月が重く暗い月だとばかりは言えない。各地の河川で鮎が相次いで解禁になり、このわたしとしても、夏にかけて新鮮な鮎の塩焼きを二、三度味わってみたいものである」と書いた◆続けて「そこで、恵まれた国に生まれたよろこびと"生き永らえて今年もまた鮎を―"という感謝の心にひたりたい」(「鮎の季節」)と平成4(1992)年の夏を前に記した。だが、この年の暮れ逝去。同書は遺稿集になった。