連載・特集

2024.6.19 みすず野

 果物を食べた後、ひとつの楽しみがある。残った種をまいてみることだ。よく知られているのはアボカド。これは芽が出て、茎のようなものが伸びてくるが、そこで関心がなくなってしまうのが毎回で、大きく育てたことがない◆驚いたのはグレープフルーツだ。芽が出た後、鉛筆くらいの太さの幹が30センチほどに育った。小指の先よりまだ小さな花を付けた。その強い甘い匂いが忘れられない。日に当てようと戸外に置いていたら、虫が付いて葉をほとんど食べ尽くした。アゲハチョウの幼虫で、食欲旺盛だったが、葉はすぐに出て来た。ある日、そこから1匹の美しいチョウが巣立っていった◆まいた種の全てから芽が出るのがビワ。生命力の強さだろうか、発芽しなかったことがない。成長のスピードも早く、ぐんぐん大きくなる。大きな鉢に移して、観葉植物のようにして楽しんだが、秋になって室内に取り込むのが遅れ、枯らしてしまった◆温暖化のためか露地に育っているビワを見るようになったが、標高が800メートル近いわが家の周囲では実を付けた木はみない。もう一度種をまいて育ててみようかと、この果物を見ながら考える。