連載・特集

2024.6.15 みすず野

 花期が梅雨時と重なり、雨がよく似合う。松本市寿小赤のアジサイ寺、弘長寺には90種ほどの約1000株が境内に植わる。山田真弘住職は現状から「例年同様、6月下旬から7月上旬までが見頃では」と推測する◆『日本大百科全書』(小学館)によると、アジサイは奈良時代からあり、『万葉集』に2首が見られる。大伴家持が「言とはぬ木すらあぢさゐ諸弟らが練りのむらとにあざむかえけり」、橘諸兄が「あぢさゐの八重咲くごとく八つ代にをいませ我が背子見つつ偲はむ」と詠んだ◆『萬葉集釋注』伊藤博著(集英社)に解説が載る。家持の歌は「相手の愛を伝えた使いの言葉を信じてばかを見たとたわむれたものと見受けられる」。諸兄の方は、アジサイが色を変えて真新しく咲くことをたとえとし、相手が幾年月ののちまでも元気でいることを願っている歌という。アジサイの色が変わるところを対照的に捉えているところが面白い◆鉢植えから自宅の庭に植えた3株に、なかなか花芽がつかず気をもんだ。うち2株が5年目に花をつけた。もう1株も7年目に咲いた。長く待つほど一花咲く喜びが大きいことを教えてくれた。