連載・特集

2024.5.30 みすず野

 俳句を読むのは楽しみだが、句を理解して、鑑賞できているかと自問するとかなり怪しい。文語は情けないことに苦手で、解釈に自信がないことも多い。だから俳句鑑賞の入門書はとても力強い味方だ◆小紙にも寄稿された俳人・小澤實さんが300句を鑑賞する『名句の所以』(毎日新聞出版)は、全ての句の口語訳が載る。近現代俳句をまんべんなく取り上げ、1句の記述に400字を費やしている。小欄の文字数に近い◆その中の1句。「みづうみのみなとのなつのみじかけれ」。作者は田中裕明さん(1960~2004)。湖にある1日に何度か遊覧船が発着する程度の港のほとりで一夏を過ごしてみると、この夏のなんという短さであったことか、とある◆「長野県生まれのぼくは、水のきれいだったころの諏訪湖のような高原の湖を想像する」という。その湖のすぐ近くで育ったので、この句からは帰省した夏休みの短さを感じた思い出がよみがえる。小澤さんは「本書を入門の一冊として開いていただけたら、これに勝る喜びはない」といい「この一書を元に近現代俳句のアンソロジーを編んでみたい」とも。楽しみに待とう。