連載・特集

2024.5.22 みすず野

 あの世とこの世の接点、のりしろを「あはひ(あわい)」と呼ぼうと思うと、能楽師の安田登さんはいう。「あはひ」は「会ふ(会う)」を語源として、二つのものの重なっている部分をいい、このあはひ文化こそ「日本文化の特色のひとつのような気がする」(『見えないものを探す旅』亜紀書房)と語る◆その建築版が縁側。家の中に招じ入れるほどではないけれど玄関先で対応するという関係でもない。そういう人が近所には大勢いて、縁側でしばらく過ごした。古くは「うち」と「なか」の区別があった。家の中は「うち」、縁側は「なか」◆「うち」まで入ることができるのは「みうち」だけ。でも「なかま」であれば「なか」の縁側まで入れる。「『なか』である縁側は自他の境界が曖昧な『あはひ』の空間だ」と。そんな縁側のある家も、東京では急激に減ってしまったという◆東京だけではない。自宅はもちろん、近所に思いをめぐらせても、縁側のある家は1軒もない。昔の家では縁側で話し込む大人が何人もいた。安田さんは、縁側がなくなった日は、人々が他人に冷たくなった日と近接しているのではと問いかけている。