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塩尻唯一の銭湯 桑の湯6月末で閉業 戦前から95年の歴史に幕

最後の営業日まで「楽しく温かくお迎えしたい」と語る桑の湯の桑澤さん親子

 塩尻市内で唯一の銭湯・桑の湯(大門一番町)が6月30日で営業を終える。昭和4(1929)年に創業し、レトロな建物とまき風呂、経営者の温かな人柄に誘われるファンが多いが、施設設備の老朽化や経営者の体力の限界を理由に、95年間の歴史に幕を閉じる。4代目の桑澤弘幸さん(53)は「最後までいつも通り、きちんとお客さまをお迎えする」と語る。

 かつて木材店も営んだ桑澤家は、廃材を利用して桑の湯を始めた。90代半ばまで番台に座った、弘幸さんの祖母・泉さんが平成31(2019)年3月に死去し、その直後に3代目で弘幸さんの父親・英晴さん=享年79=も亡くなった。弘幸さんは母親の節代さん(80)と親子で切り盛りしてきた。
 30年には3代目夫婦が同時に入院して、週1回しか開けず廃業の危機に直面した。周囲の支えもあって乗り越えたが、最近は古い設備が故障しがちだ。1日に15時間ほど窯の番をして休日はまきを作り、休む間もなく働く弘幸さんは「余力があるうちに」と昨夏に廃業を決断。先月、考えを伝えたスタッフ6人には涙を見せる人もいた。
 毎日丁寧に磨かれ、古くても清潔な風呂にはいろんな人が集う。常連の小学1年生の女児に「いつもあったかいおふろありがとう」と手紙をもらった。松本市からバスを乗り継ぎ手土産持参で来る男性もいる。「良かったよ、また来るね」との客の言葉に励まされてきた。
 令和元年に長野市で千曲川の堤防が決壊した台風19号災害時は、被害廃材の一部をまき材として受け入れた。4年には、のれんを40年ぶりに復活させ、地元の女子高校生と協力し創業以来初めて入浴回数券を作った。
 昨年12月にはスタッフの発案で、小学生対象の「おふろ教室」を企画。県が子連れで公衆浴場を使う際に混浴可能な年齢を6歳までに引き下げる条例改正案をまとめたことを受け、今月までに4回開き、地元の児童20人超が銭湯マナーを学んだ。
 人のため、まちのため役に立ちたい―と銭湯経営に奔走してきた弘幸さんは「本当にいろんな方の支えでやってこられて感謝しかない。あそこの銭湯楽しかったね、と思い出になれば」と話す。節代さんも「やめるのは切ない」と話しつつも、最後まで自然体を貫く考えだ。