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支えに感謝 聴覚に障害 杉野凜太郎さん松本歯科大卒業

卒業証書を持つ杉野さん

 松本歯科大学(塩尻市広丘郷原)の卒業証書・学位記授与式が1日に行われ、生まれつき聴覚障害がある杉野凜太郎さん(28)=東京都出身=が歯学部を卒業した。全く耳が聞こえない卒業生の輩出は同大学で初めて。授業を受ける環境の整備など大学のサポートを受けて研さんを積み、6年間の学びを終えて歯科医師の夢に近づいた。

 父が都内で内科の医院を営んでおり、幼少のころから医療の道に関心があった。大学医学部に進んだ姉と話す中で、「自分が歯科を勉強すれば、きょうだいで協力して仕事ができるかもしれない」と考えたのが、歯科医を志したきっかけだ。さまざまな大学の歯学部を検討し、障害のある学生の受け入れ態勢が「しっかりしている」と判断した松本歯科大を選んだ。
 同大学がまったく耳の聞こえない学生を受け入れるのは初めてで、杉野さんのためにパソコンの要約筆記者や手話通訳者を用意した。授業では、4人の要約筆記者が協力して授業内容を聞き取り、杉野さんのパソコンに送信。臨床実習では、手話通訳者1人が付き添った。教員の声のトーンの変化で授業のポイントをつかむ―といったことは難しく苦労したというが、「先生方や友人にカバーしてもらった」と感謝とともに振り返る。
 同大学の大学院への進学を希望している。将来のことはまだ具体的に考えていないが、「再生医療ができる歯科医師として高みを目指したい」という。聴覚障害のある医療者としての立場を踏まえ「中にはさまざまな理由でコミュニケーションが難しい人もいる。患者さんに寄り添える歯科医師になりたい」と語った。
 宇田川信之歯学部長は「6年間本当によく頑張った。立派な歯科医師となって活躍してほしい」と願っていた。
 杉野さんは1月下旬に歯科医師国家試験を受けた。3月15日に合格発表があり、同大によると、合格すれば日本初の「全く耳の聞こえない歯科医師」になる。