連載・特集

2024.2.15 みすず野

 旧制松本高校から東北大に進んだ作家・北杜夫さんの大学時代の保証人が、哲学教授・河野与一 (1896~1984)だった。碩学で知られたが、学問を楽しんだ人という◆著書『新編学問の曲り角』(原二郎編、岩波文庫)は、あくびがうつるということの典拠や、プラトニック・ラブの由来などを説く。「作らず・書かず・ただ読む人」という1編は「ただ読む人」と名乗っていたころ、まめに古本屋を回り、同業者と間違われたこともあったのに、最近は本屋をのぞく機会がほとんどなくなったと◆「ただ読む人」と名乗っていたころにしても「今に何かのためになるという下心から頁を繰っていたのではないかと反省して見ると、なかなか『ただ読む人』にはなれないものだという、口惜しいような、きまりが悪いような、情けないような心持がする」と語る◆その分野で知られた碩学と比べるのは身の程知らずもいいところだが、こういう下心なしに読む本がどれだけあるだろう。ほとんどそのためだけに目次を調べ、ばたばたと斜め読みをする。この本も1編ごとに引き付けられながら、小欄に引用できると喜んでしまった。

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