連載・特集

2024.1.9 みすず野

 正月や小正月には、柳やヌルデの箸を使う日があったような記憶がおぼろげに残る。決まった1食だけで、それを我慢して使い、次の食事から普通の箸に戻るとほっとした。柳などの箸は太く、箸をきちんと持てなかったころは扱いに苦労した◆喜劇役者だった古川ロッパ(1903~61)は「僕は、箸が持てない」「箸を使って飯を食ってはいるんだが、箸の正則的な持ち方が、出来ない」(『ロッパ食談完全版』河出文庫)という。映画で食事場面があると、監督に「まだお箸がもてないんですか」と笑われたとか◆国文学者の池田彌三郎(1914~82)は「ぶきっちょなわたしは、小学校に通うようになってもまだ持てなかった」(『私の食物誌』岩波同時代ライブラリー)と振り返る。祖母は食事の作法にやかましく、びしびしと言われたそうだ。今になると懐かしく「しみじみ思い出される『庭訓』(家庭教育)という気がする」と語る◆他人の箸の持ち方は確かに気になる。テレビの食事場面で、気付くと手元を見ている。もっとも、池田の師・折口信夫も「一生、へんな箸の持ち方をしていた」というから気にすることもないか。