連載・特集

2024.1.12 みすず野

 スマホやパソコンがこれだけ普及した社会では、記憶力がすぐれているのは、たいしたセールスポイントにはならないのだろうと思う。ただ、そうしたものを使わない分野では、大いに有益な能力に違いない◆落語家の立川談四楼さんは、落語家には①すぐ覚えなかなか忘れない②すぐ覚えすぐ忘れる③なかなか覚えられないが、いったん覚えると忘れない④なかなか覚えられず、かつすぐ忘れる―の四つのタイプがあるという(『落語家のもの覚え』ちくま文庫)◆③が最も多く、不器用でも積み重ねることにより、ある水準に達する。やっかいなのは④で、落語家には向いていないといってもいいが、このタイプが結構いるという。高座の途中でひっかかり、言い直したりへどもどしたりする。ところがそれを繰り返していると、その部分がやがて魅力に。「えてして人気はそういうところから発する」のだと◆談四楼さんはいう「上手い人はほんのひと握り。つまり落語界はほとんどの下手で成り立っているのです。あなたの会社も本当はそうじゃありませんか?」と。自身は④では自分がかわいそうなので③のタイプだと思いたいそうだ。