2023.10.5 みすず野
ともに明治生まれで、50代で亡くなった2人の女性に思いをはせる。新刊コーナーの『杉田久女全句集』(角川ソフィア文庫)は帯書きに〈師・虚子による破門後、未発表の句も収録〉とある。図書館へ行かなくても手元に置けるようになった◆編者の坂本宮尾さんが句の背景や味わいどころを挙げた〈十五句鑑賞〉には、もちろん代表句の〈紫陽花に秋冷いたる信濃かな〉が入っている。城山公園に句碑が立つ。随筆選から漏れたが、これを機に父のふるさと松本への愛着をつづった佳文も読まれ、もっと多くの市民が〈女性俳句の先駆者〉ゆかりの地を誇れたらいい◆もう一人は高村智恵子。夫・光太郎の詩集『智恵子抄』に収められた〈レモン哀歌〉にちなみ、きょうはレモン忌。光太郎は滞在中の上高地から―徳本峠で待っていても同じなのに―岩魚留まで迎えに行った。待てなかったのだ。汗を拭い、顔をほころばせる智恵子が目に浮かぶ◆峠道の復旧に汗をかく人たちがいる。何かお手伝いができないだろうか。日本近代登山の黎明期を支えた古道だから1人の名というわけにはいくまいが、ひそかに「智恵子の道」と呼びたい。