連載・特集

2023.10.13 みすず野

 実は、うどんのほうが好きだ。そば祭りが終わったので、ようやく書ける。雑キノコが入った温かいうどんは一番の好物と言っていい。おおむね東か西か―生まれ育った地域によっても好みが分かれよう◆夏目漱石は江戸っ子だから、うどんどころ四国・松山でも坊っちゃんにそばを食わせた。しかも4杯!と思っていたら、『猫』の苦沙弥は〈僕は饂飩が好きだ〉と言う。作家の出久根達郎さんは『七つの顔の漱石』で〈饂飩党だったのではあるまいか〉とし、松山への赴任も〈讃岐の饂飩が食べたくて〉かもしれないと◆そばと同じように所変われば―一般に「こしがあってうまい」とされるが、九州・博多のうどんにはこしがない。かまずに喉を越す。食べるというより「のみ込む」に近い。そういえば松本の裏町辺りにうまいうどん屋があり、酒を飲んだ後の胃にやさしかった。今はもうないだろう◆四季折々の料理を伝える『七十二候美味禮讚』に、ハモの天ぷらとマツタケを具にした挿絵と文が載っていた。秋のハモは梅雨時に続いて2度目の旬だとか。ぜいたくはできないけれど、湯気立つ〈おうどん〉が恋しい季節になった。