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蚕種貯蔵用の風穴跡を再び発見  松本市波田の鷺沢源流で

鷺沢沿いで新たに見つかった小規模の風穴跡

 松本市波田の山中を流れる鷺沢の源流で、岩の間から吹き出す冷風を利用した天然の冷蔵庫「風穴」の跡が新たに見つかった。市民グループ・稲核風穴保存会(有馬正敏会長)が5月、昨夏に見つけた1基目のそばに2基目を発見。明治期の文献から蚕種(蚕の卵)貯蔵用とみられる。最寄りの集落から遠く離れた風穴は異例で、立地が悪くても風穴が要るほど蚕種貯蔵の需要が多かった当時の好況ぶりがうかがえる。

 2基目は幅3.6㍍、奥行き2.3㍍、高さ1.8㍍と推定される小規模の風穴で、ほぼ土砂で埋まっていた。1基目はその5倍の容量があり、高さ2㍍以上の石積みなどが残っている。明治40年代の県蚕病予防事務所発行の「長野県風穴調」によると鷺沢風穴は2カ所。今回見つかった2基は記録の寸法とほぼ合致し、専門家も視察して風穴と確認した。
 風穴で蚕のふ化を春から桑の葉が多い夏~秋に遅らせる蚕種貯蔵は明治~大正初期に盛んに行われ、風穴が多い安曇・稲核周辺は全国から注文を受けた。ただ、鷺沢風穴は集落付近にある多くの風穴と違い、旧野麦街道から約1.4㌔も離れた沙田神社奥社近くにあり、蚕卵紙の運搬には不便のように見える。
 ただ、沢筋は岩くずが転がるガレ場で空気はひんやりとし、緩やかな湾曲地形のため風穴を造るには好立地だ。旧街道までのルートはほぼ一直線で「昔の人の感覚では、それほど遠い距離とは思わなかったのかもしれない」(市文化財課)。
 2基合わせた蚕卵紙の貯蔵量は記録では3万8800枚に上る。有馬会長は「それだけ多くの需要があったのだろう。稲核や島々などを含めた梓川筋の風穴群の一つとして、機会があれば皆さんに説明していきたい」と話している。