連載・特集

2023.5.5みすず野

 連日の晴天で、田植えもキャンプも帽子が手放せない。テーマパークでジョーンズ博士の中折れ帽を阿弥陀にかぶっていたら、キャストの人から「お似合いですよ」と褒められたことがある。多分みんなに言っていたのだろう◆学生時代は新品の制帽をわざとボロボロにし、弊衣破帽を気取った。漱石の〈三四郎〉も『伊豆の踊子』の〈私〉も。もしかしたら、啄木も盛岡中学のとき―〈高山のいただきに登り/なにがなしに帽子をふりて/下り来しかな〉『一握の砂』◆牧水の旅支度は脚半とわらじに〈鳥打帽〉だから、今日のハンチングか。一昔前の映画に出てくる刑事や新聞記者は大抵かぶっていた。他に帽子がトレードマークといえばスナフキン、金田一耕助、寅さん―お好きに挙げてみてください―シルクハットなら〈きかんしゃトーマス〉のトップハム・ハット卿、山高帽はチャップリン◆俵万智さんの〈思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ〉は、ちょっぴり切ない。〈ころがりしカンカン帽を追うごとくふるさとの道駈けて帰らん〉は寺山修司―きのうが命日だった。亡くなって40年の歳月が流れた。