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抗生物質使わない家畜の飼養試験へ 県畜産試験場が新年度から

餌を食べる子豚。薬剤耐性菌を増やさないため、抗菌性物質が添加された飼料を使わない飼養を試す

 県畜産試験場(塩尻市片丘)は新年度、抗菌性物質(抗生物質)を使わない家畜の飼養試験に着手する。抗菌性物質は、国内では家畜の成長促進用に広く使われている一方、多用・不適切使用が招く「薬剤耐性菌」の増加が、人の医療現場と同様に懸念されている。人、動物、環境の健康を一体的に捉える「ワンヘルス」の理念に基づき、地方の公的試験機関では例がないという試験に挑む。

 国内畜産分野では、主に豚と鶏の飼料添加物として、抗菌性物質が使われている。人の口に入る時には成分が残留しないように、出荷前の一定期間は使用をやめており、試験はこの不使用期間をどこまで延ばせるか試す。抗菌性物質が入っていない発育促進の機能性飼料の効果も調べる。家畜の発育性や経済性を損なわず、農家が受け入れやすい方法を確立できるかどうかが課題だ。
 試験場によると、国内の抗菌性物質の販売量は家畜・水産用が6割を占め、人用の3割を上回る。抗菌性物質によって、家畜体内で細菌が耐性を獲得し、薬の効かない耐性菌が人や野生動物に広がる恐れがある。地球規模の問題となっていて、使用抑制の流れが出ているものの、現在のペースで耐性菌が増えた場合、2050年には世界全体の薬剤耐性菌による死者数が1000万人に達し、がんの死者数を上回るとの試算がある。
 試験期間は令和7年度までの3年間とする。県内公共牧場に侵入しているニホンジカのふんを調べ、環境中の耐性菌の広がりも調べる。神田章場長は「地球温暖化対策と共に耐性菌対策は急務で、地方の試験場として何ができるかを考えた。関係機関と連携し抗菌性物質を使わない方策を実証したい」と話している。