連載・特集

2023.3.4 みすず野

 高校の卒業式の様子が、紙面で伝えられる。小学校、中学校、高校と進むにつれて、卒業式の記憶は薄れていて、高校はほとんど覚えていない。胸のうちには家を離れて始まる新生活への思いがあふれていた。友人たちとの別れがつらかったということもなかった◆大学では、知り合った一人一人から、さまざまな刺激を受けた。文学は彼、政治はあの先輩、音楽はあいつ、美術はあの人というように。彼らは実に深い知識を持っていた。毎日が新鮮だった◆彼らが大人に見えた。それに比べ、自身は何も知らない子どもであることを思い知らされ、長い間それがコンプレックスだった。卒業後は、時間の経過が年々速くなり、学生のころの何倍もの時が瞬く間に過ぎた。思い出す記憶の濃密さは、年月の長さに比例しない◆今も連絡を取り合っている当時の仲間はほとんどいない。でも彼らを忘れたことはない。1冊の本を読んだり、ラジオから流れるメロディーを聴いたりするたびに思い出す。彼らは最も身近な先生だったのだと今になってわかる。この春、学窓を後に、新たな一歩を踏み出す人たちにうれしい出会いがありますように―。

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