連載・特集

2023.3.10 みすず野

 テレビはCMのたび〈こだまでしょうか〉と繰り返していた。童謡詩人の金子みすゞ(1903~30)を東日本大震災で知った人もおられよう。筆者もそう。きょうが命日。512編の詩を清書し、自ら命を絶った◆研究書が挙げるのは―平易な言葉のみずみずしさや、いのちへの慈しみのまなざし...今からちょうど100年前に紡ぎ始めた詩句が時を超えて、人々の心を打つ。あらためて読むと、よく知られた一行〈みんなちがつて、みんないい〉も今まさに新鮮に響く◆あすで大震災から12年―あの日を境に私たちの社会はどう変わっただろう。忘れない。発災当時「これで時代の潮目は変わる」と信じた。便利さや豊かさをひたすら追い求めてきたけれど、これからは不便も覚悟しなければならなくなる。脱原発にかじを切らなければ...そう思った。被災地への関心も含め、いつでも立ち返る「あの日」にしたい◆山口県生まれのみすゞのペンネームは信濃にかかる枕ことば「みすゞかる」が由来だという。響きがあり、美しいと感じた(『金子みすゞ永遠の抒情』詩と詩論研究会編)―小欄のタイトルとも重ね、気が引き締まるのだ。

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